home / stars / M7 さそり座 M7 〜トレミー星団〜

 さそり座にある散開星団です。 今回はFC-76の直接焦点撮影に挑戦してみました。 今まではFC-76はガイド鏡で、カメラのレンズで撮っていたわけです。 それを、今回はカメラのレンズとしてFC-76を使ってみよう、というわけです。 ということはガイド鏡がないわけです。 追尾撮影は焦点距離が長くなるほど追尾の精度に厳しくなるわけです。 すばるはガイドありで200mmで撮っているわけです。 それを、ガイドなしで600mmで撮ろうとしているわけです。 簡単に言ってしまうと無謀です。 でもやってみたら案外できちゃうかもしれない。 そんな実験です。 つまり、M7を撮りたかったんじゃなくて、実験材料です。 M7さんごめんなさい。

 まぁ、本当に無謀ならこんなことはしません。 ある程度勝算があるから実験してみたわけです。 焦点距離が長くなるとガイドが必要になるのは、極軸の精度に限界があるのと、ピリオディックモーションのせいです。 この両方が出ないうちに撮影を切り上げればいいわけです。 このうち、極軸の精度には自信があります。 問題はピリオディックモーションの方です。

 ピリオディックモーションは赤経軸のウォームとウォームホイールのかみ合いを原因とする、ウォーム一周を周期とした赤経軸の前後動です。 ピリオディックモーション以外に誤差要因がなければ、ウォームが一周すると望遠鏡は天球上で元の位置に戻ってきます。 逆に言うと行きっぱなしなわけではなくて、行ったり来たりしているわけです。 それも一定の速度ではなく、ふらふらと速度を変えながら行ったり来たりします。 ならば、動きが逆になる瞬間に、ピリオディックモーションの影響を受けない瞬間があるかもしれないじゃないですか。 あるいは、速度が遅いときならば大丈夫かもしれないじゃないですか。

 私が使っている赤道儀EM-1は、赤経軸のウォームホイールが144歯です。 1日は24時間×60分=1440分ですから、ウォームは10分で一周する計算です。 だったら、10分に比べて非常に短い時間なら、ピリオディックモーションが目立たない場所があるかもしれません。 しかし、天体撮影は露出時間をできるだけ長くしたいわけです。

 露出時間が長くできないなら感度を上げればいい。 感度の高いフィルムは粒子が荒れます。 デジタルでもノイズが増えます。 フィルムの時代はこれ以上の対策はなかったかもしれません。 しかし、現在は大量に撮ってコンポジットしてしまえばいいじゃないですか。 露出時間を切り詰めて、その分感度を上げて大量に撮って、コンポジット。 これが今回の実験の方針です。

 M7を選んだ理由は、

です。 まず、見えなきゃ実験になりません。 散開星団を選んだのは、理想的な光学系ならば「あちこちに点像ができる」という結果になるからで、ピリオディックモーションはもちろん、望遠鏡の性能もある程度知ることができます。 特に周辺像。 歪曲収差を見るのは難しいですが、そのほかの収差の傾向はだいたい分かるでしょう。 また、恒星は焦点距離が長いほうが暗い星まで写ります。 つまり、焦点距離が長いほうがいっぱい星が写るようになります。 どこまでいっぱい写るかも気になるところです。

※ (太陽以外の)恒星は焦点距離によらず点像になるので、像の明るさは口径で決まります。 回折限界に達しない限り焦点距離は影響しません。 星雲など面積のある天体や空は口径が大きくなるほど明るく、焦点距離が長くなるほど暗く写ります。 つまりF値で像の明るさが決まります。 焦点距離を長くすると恒星の明るさはそのままで、空だけ暗くなります。 空が暗くなった分だけ暗い恒星まで写るようになります。 星雲などは焦点距離を長くしても暗いものまで写るようになったりはしません。 最終的には空が暗いところに行くしかないのです。

 M7の位置ですが、さそり座のしっぽのすぐ北です。 比較的見つけやすい部類に入るのですが・・・前の家の屋根が邪魔してさそり座の南の方が見えなくなるととたんに難易度が上がります(笑)。

ここにM7の位置を示したさそり座の写真が入る予定です。 撮り忘れたので気長にお待ちください。m(_ _)m

home / stars / M7 ピリオディックモーション

 とりあえず適当に撮ってみると、ISO1600・8秒で背景が白くなってきます。 もしLPS-V4を使うと露出を2段長くしなければならないので、ISO1600・30秒で撮ることになります。 ということで、露出は30秒で実験します。 今はノーフィルターですから、ISO感度は2段下げて400にします。 30秒ならばウォーム一周の1/20です。 ISO400・30秒露出でウォーム一周分、つまり約20枚撮って、使えるコマをコンポジットすることにします。 うさぎ座のデータを見るとISO400・F4・8分、つまりF8にすると15分撮ってる計算になります。 相反則不軌があるとはいえ、5段も短いのか・・・よっぽど光害多いんだな・・・。

 左側は全体像で、星像は大きくしてから縮小してあります。 周辺減光の様子が分かります。 APSサイズなのでそんなに大きく目立つ減光はありません。 下側が斜めにケラれていますが、これは前の家の屋根です。 つまり、この方向が水平方向。 構図は上が北、つまり、横方向が赤経方向、縦方向が赤緯方向です。 30秒ずつ、10分かけて17コマを撮影しました。 その中央部分をdot by dotで抜き出したのが右側。
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17

 7や8がひどいことになっていますが、これは床面(室内なので)に対して垂直方向へのゆれです。 おそらく「子供が階段を駆け上がったとき」にできた像と思われます。 17は水平方向のゆれ。 12や15あたりがきれいな(?)ピリオディックモーションでしょう。 どこまで拾うのか、といわれると微妙なところですが、2・6・11・13・16あたりは使えそうです。 17コマ中5コマ。 これを意外と拾えたと考えるか、少ないと考えるか。 ひとつ言えるのは、ピリオディックモーションより子供が跳ねた方が影響が大きいってことですかね(当たり前)。

home / stars / M7 コンポジット

 この5コマをdcrawでダーク減算・現像して、RegiStax 6でスタック処理するのですが、どうもRegiStaxで大きな画像を扱うとコケるため、現像後にImageMagickで縦横半分にしておきます。 ここまではパイプを使ってコマンドライン一発でできます。

dcraw -H 1 -w -K darkframe.pgm -c $i.ARW | convert - -morphology dilate diamond -resize 50% half/$i.bmp

 darkframe.pgm はダークを撮ったRAW画像を「dcraw -D -4 -j -t 0 RAWファイル」とすることで生成します(これはdcrawのmanpageに書いてあります)。 convertはImageMagickのコマンドで、入力ファイルとして - を指定して標準入力からデータを読み込ませています。 -morphology云々は、そのまま縮小すると小さい星像が消えてしまうため、上下左右に1ピクセルずつ星像を拡大しています。 その後、-resize 50% で縮小して、BMPファイルとして出力しています。

 終わったらRegiStax 6 でコンポジット、それをGIMPで処理します。 まず、背景が黒から浮いているのを調整します。 普通、フラットフレームで補正するものですが、面倒くさいので半径100ピクセルでガウスぼかしをかけた画像を減算します。 この方法は星の密度が低く、面積のある天体が写っていない場合にお手軽で有効な方法です。 面積がある天体が写っていると、その天体が暗くなってしまいます。 続いて、レベル調整でカラーチャンネルごとに輝度の最大値が255になるように調整して、さらにガンマを極端に上げた状態で、マッハバンドとノイズと思わしき輝点が消えるまで輝度0の入力値を上げていきます。 最後にガンマを調整しておしまい。
緑プレーンの最大輝度の調整。 右上のボタン(「チャンネルのリセット」の右にあるふたつのボタンの右側)を押すと、度数が対数圧縮されて表示されてやりやすい。 ガンマと最低輝度の調整。 最低輝度の調整はガンマを極端に上げる(灰色の▲を極端に左に動かす)とやりやすい。 調整が終わったら目的のガンマに戻す。

 出来上がりが左の写真。 屈折で、F8で、焦点距離が長いので、明るい反射のような派手さはありません。 この辺、天の川の中なので、本来ならうじゃうじゃと星が写るのですが、やはりそこまではいきませんね。 でも意外と暗い星まで写っています。 気になる端の方の像ですが、放射状に若干流れています。 コマ収差というより、非点収差なのかな。 まぁ、2枚玉の対物レンズを設計する場合、軸上色収差・球面収差・コマは補正すると思うので、非点収差が残るのは自然なのかもしれません。

 きれいに放射状に流れているので、光軸は合っている、ということですね。 像面はそんなに湾曲していない気がします。 角のほうで若干ピントが甘いかなー、というくらい。 この画像はAPSサイズですから、35mmフルサイズだと無視できないくらい問題が出そうです。 いずれにせよ、フラットナー・レデューサー、欲しくなりますね。


 90度回して4:3にトリミングしてみました。 右側が北になります。 M7の形は「柄の付いた風車」という感じです。 ふーっ、っと息を吹きかけたら回りそうです。 子供が持って走ってそうでなかなかかわいい。

M7 XGA (1024X768): 単にトリミングしたもの。

M7 VGA (640X480): ガウスぼかしをかけた画像を「比較(明)」で重ねてトーンカーブを調整することで、明るい星をにじませて大きくしてから縮小しています。

 大きいままだと寂しいし、小さくするとごちゃごちゃしちゃうし、難しいですね。 もっときちんとしたところで撮影すれば、バックに天の川が写るんでしょうけど。

■カメラ:α700(ソニー) ■FC-76(高橋製作所 D=76mm f=600mm F7.9)直接焦点 ■露出:ISO400 30秒 ■撮影地:千葉県千葉市 ■EM-1(高橋製作所)で自動追尾(ガイドなし) ■2012年8月3日 21時07分から30秒ずつ17コマ露出、dcrawで現像、ImageMagickで50%に縮小、5枚をRegiStaxでコンポジット、GIMPで処理。


M7 NGC6475 トレミー星団 : 散開星団 赤経17h55m 赤緯-34度34分 距離1230光年 視直径60' 実視等級3.2等 星数50(天文年鑑2012年版、2012.5分点)

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