撮影をやっていて意外と大変なのがピント合わせです。 最近のカメラはオートフォーカスが当たり前ですが、対象が小さくて暗いので、うまく動かないか、動いても精度がイマイチのことが多いです。 望遠鏡をつないだ場合は当然カメラのAFは使えません。 フォーカスエイド(ピントが合うとファインダー内の合焦マークでお知らせしてくれる機能)もありますが、よほど明るい望遠鏡(F4くらい)じゃないと使えません。
ただ、天体というのはどんな天体でも事実上無限遠にピントを合わせればいいので、たとえばアルデバランでピントを合わせてすばるを撮る、ということをやっても構いません。 つまり、なるべく明るい天体でピントを合わせて、その後、構図を変えます。 秋は大変です。一等星がフォーマルハウトしかないですから。
星野撮影の場合、50mmより短い焦点距離のレンズや、焦点距離が長くても暗いレンズ、簡単に言ってしまうと無限遠に遊びがないレンズならば、無限遠に合わせて、ファインダーをのぞいて問題がなければたいていはそれでOKです。 私が持ってるレンズだと24mm F2.8・50mm F1.4・35-70mm F3.5-4.5と、機材のページには書いてませんが、A09以前に常用していた24-105mm F3.5-4.5がこのタイプ。 嫁さんの持ち物で死蔵状態になっている75-300mm F4.5-5.6は目盛環がありませんでしたが、実際に使ってみると回し切ったところが無限遠でした。
100mm以上で明るいレンズの場合は無限遠に遊びがあることがほとんどなので、無限遠と言えどピントを合わせなければいけません。 あ、タムロンのA09、28-75mm F2.8だけど無限遠に遊びがあるわ。 こういうレンズは明るい場合が多いので、AFやピントエイドが効くこともありますが、まぁ、どうせ撮影するときはF4とかF8に絞り込むので、目で見て合わせればOKのことが多いです。
余談ですが、AFレンズは合焦速度を速くするためか、ヘリコイドの回転角度がやたら少ないです。 MFのレンズは3/4回転くらいは回ったものですが、80-200mm F2.8を買ったときにMFレンズと同じ調子でヘリコイドを回したら、1/6回転しか回らなくて、おもいっきり「かこーん」とやってしまいました。 このため、AFレンズではピントの微調整がとてもやりにくいです。 メーカーも一応分かっているのか、新しい70-200mm F2.8の方は内部で減速してるらしく、ヘリコイドが1/2回転します。 でもAFのレンズに慣れてしまうと、これはこれでダルいです(わがままな)。
望遠鏡をつないだ場合はAFは使えないので、普通にピントを合わせないといけません。 カメラのファインダーを覗いて(最近は背面液晶でライブビューという手段もありますが)、望遠鏡のピントノブを回して合わせるしかないのですが、これが非常に見にくいんですね。 どちらかというとピントが合っている位置を探すというより、その前後で同じくらいボケる位置を探って、その中央でいいや、みたいな。
フィルムの時代は現像するまで結果が分からなかったので、それはもう必死でした。 カメラを付けてると天頂プリズムが使えないので、対象によってはかなり無理な姿勢になります。 無理な姿勢のまま、ここかな? ここかな? と1分もやってると目が疲れてしまってなんだか分からなくなります。 そういうときは一度目を離して、一息ついてやり直してました。
デジタルカメラならば撮ったその場で結果が見れますから、少しずつピントをずらして撮影して、一番いいコマの位置で撮ればよいのです。 ここで問題になるのは、「このコマのピント位置はどこだっけ?」という点で、ドローチューブに目盛が打ってないとピント位置が再現できません。 また、粗動しかない場合も、ピント位置の再現が難しくなります。
標準のFC-76には微動ハンドルはありませんが、オプションで微動装置をつけることができます。 あるいは、BORGから各種ヘリコイドが出ているので、これを使うこともできます。 BORGのヘリコイドは、M57ネジの部分に挿入するもの、M36.4ネジなどで接眼側に取り付けるもの、M42P1ネジ規格のものの3系統と、どれにも属さないものとしてBORG金属鏡筒に取り付けてM60/M57ネジになるもの、中判ヘリコイド、M42ヘリコイドT(M42P0.75)があります。
今はカメラのピント合わせの話をしていますから、M36.4の接眼部ヘリコイドは除外です。 FC-76に接続しようとしているのでBORG金属鏡筒用のヘリコイドも除外。 M42P1はわざわざ変換する必要があるので、便利なのはM57とM42P0.75(Tリング)のヘリコイドです。 この中でも目盛があって薄いやつがいいので、ベストなのはM57ヘリコイドDXでしょう。 ただしちょっと高いです。 タカハシの微動装置と値段があまり変わりません。
というわけで、お手軽で汎用性が高いのはM42ヘリコイドT(7839)です。 ただ、このヘリコイドには目盛がないので、そこをどうにかする必要があります。 あと、Tリング規格で接続するので、いろいろなシステムに付けられるのはいいのですが、特にレデューサーなどフランジバックにうるさいシステムに入れてしまうと、像が悪化してしまいます。 直接焦点なら対物レンズから撮像素子の間にレンズの類は何も入っていないので問題ないです。 拡大焦点の場合はヘリコイドの長さによって拡大率が変わってきます。 コンポジットする場合は撮影中にドローチューブの長さを変えてしまうと後で面倒なことになりそうです。
このヘリコイドには目盛が付いてないので、シールになっているプリンタ用紙に目盛を印刷して貼り付けてあります。 指標はバーニヤになっていますがほとんど使っていません。 このヘリコイドはほぼ半回転し、目盛を貼ってある部分は直径58.2mm。 なので、この部分は91.42mmだけ動きます。 そして、縮んだ状態が17.85mm、伸びた状態で27.90mmなので、10.05mm伸びます。 したがって、約9.1mm回すと、1mm伸びる計算になります。 これで目盛を作って貼ってあります。 0.1mm刻みで、1mmごとに数字を入れてあります。
主目盛は外側のリングの、ローレットのない幅3mmほどの部分に合わせて作り、そこに貼り付けてあります。 バーニヤ指標は内側と外側のリングの間にわずかに隙間があるので、ヘリコイドを伸ばし切って幅1cmほどの目盛を貼り付けてあります。 約10mm伸縮するので、バーニヤ目盛の幅も10mm必要です。 貼る位置はカメラにマウントアダプタとヘリコイドを付けた状態で、見やすい位置になるようにしています。 紙製のシールに印刷したのですぐにデロデロになってしまうかと思いましたが、意外ともっています。 デロデロになってしまたらフィルム製のシールに変えようと思ってます。
ピント合わせは、まず、ヘリコイドを0に合わせて、ドローチューブでピントをだいたい合わせます。 あとは前後適当にずらして撮ってみて、一番いいコマの位置で撮影するだけです。 ピントさえ分かればいいので、明るい星を短い露出で撮るのが吉です。 基本的にはこれだけです。 しかし、±1mmを0.1mmごとに撮ると21コマ撮ることになるので、意外と面倒です。
こんな方法もあります。 +0.8・-0.8の位置で写真を撮って結果を見ます。 ピントが逆方向にずれているのが分かるくらい、極端にずらして撮るのがコツです。 1.0ではなく0.8なのはちょっと理由があります。 +0.8の方がよければ、たぶん+0.8〜0.0の間にジャストの位置があるのでしょう。 -0.8の方がよければ-0.8〜0.0の間です。 ここでは+0.8の方が結果がよかった、とします。
続いて0.0で撮ります。 これとさっき撮った+0.8を比べて、+0.8の方がよければ+0.8〜+0.4の間に、0.0の方がよければ0.0〜+0.4の間に絞り込みます。 0.0の方がよかったとしましょう。 そうしたら次は+0.4で撮ります。 0.0と比べて+0.4の方がよかったとすれば+0.4〜+0.2に絞り込み、さらに+0.2で撮って+0.2の方がよかったなら+0.3で撮ります。 最後に+0.3と+0.2を比べてよかった方がピントが合った位置です。 撮るごとにいらない方を捨てていけば、常に隣同士の画像を比べればいいので楽です。
まじめに撮ると17コマ分を、+0.8・-0.8・0.0・+0.4・+0.2・+0.3の6コマ分で済ませています。 これは要するに情報科学分野で言うところの「二分探索」です。 二分探索では最初が2の累乗になっていると都合がいいので、±1.0ではなく、±0.8にしたのです。 二分探索は極軸合わせにも使えます。 行き過ぎるまで調整して、そこから調整量を半分にしていけばいいのです。
ニュートン反射など、光路に障害物がある形式では、星像にその影響が出ます。 よく星に光条が出ている写真がありますが、あれがそうです。 この光条はピントが合っているときが一番細くなります。 これを利用してピントを合わせることもできますが、この方法ではピントがどちらにずれているかが分かりません。
スパイダではなく、光路中に非対称の障害物を置くと、前ピンと後ピンで星像への影響が逆になります。 たとえば、友柚工房さんの高精度ピント合わせのような「パックマン」マスク。 前ピンと後ピンのどちらか分かると、二分探索する場合に「どちらがよりピントがあっているか?」という比較ではなく、「どちらにずれているか?」の比較で済むので、とても楽になるのです。
そして最近の流行り(?)がバーティノフさんの考えたバーティノフマスクです。 このマスクをかぶせると、X型の光条の間に縦の光条が入り、縦の光条がピントによって左右(まぁ、マスクの向きによって上下だったりもしますが)に動きます。 ピントをずらしていくと連続的に縦の光条がずれていきます。 Yahoo!に「Bahtinov mask」と聞いてみれば、astrojargonというサイトを教えてくれます。 ここで自分の望遠鏡に合わせてバーティノフマスクの画像を生成することができます。 あとはこれを印刷して切り抜けばおしまい、なのですが、LPS-V4を買ったときにふと後ろを向いたら、こんなのが目に入ってしまいました。
袋の中に入っていて、どうやって取り付けるか不安だったのですが、お店の人とごにょごにょすること約3分、お持ち帰りの袋の中に納まっていました。 まぁ、買わなければここにこうして写真が出ることもないわけですが。 3箇所のボッチはゴム足みたいになっていて、これがスライドします。 これを調整して、フードを内側あるいは外側から押し付ける形で、マスクがなるべく真ん中に来るように固定します。
こんな感じなので、固定といっても強固な固定は期待できませんが、望遠鏡が上を向いていればまず平気でしょう。 まぁ、ピント合わせが終わればすぐ外すものですから、あまりしっかり張り付いてくれても困るわけですが。
実際に写真を撮るとこうなります。 直接焦点で撮ったものをトリミング。dot by dot です。
んー、典型的な像よりもちょっと見にくいですが、それでも光条はちゃんと分かります。 ピントをずらしていくと、左側から右側のように、連続的に縦の光条が動いていきます。 あとは二分探索でジャストの位置を探すだけ。 ヘリコイドを0の位置にしてドローチューブで適当にピントを合わせたら、たとえば+0.8と0.0で撮ります。 これが同じ方向にずれているようなら次は-0.4で、反対側にずれているようなら次は+0.4で撮ればいいわけです。
デジカメ・ヘリコイド・目盛・バーティノフマスクを組み合わせると、今までの苦労はなんだったんだろう、と思うくらい、あっという間にピント合わせが終わります。
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