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収入・借入金額・借入利率・返済額・返済回数・預入利率など、借金返済にはいろいろな数字が絡んできて、時と場合によって最適な返済方法は異なる。どんな時にどういう支払をするのが有利なのか、シミュレーションをすることでその傾向を探ってみる。
繰上の有無
繰上がなければそれだけ預貯金が増えるから、預貯金金利が上昇傾向にあれば繰り上げないほうが得になることもある。現在の借入残高と定額貯金残高が同額で、借入利率が2.6%固定、定額貯金金利が5%だったら・・・パラダイスですな(笑)。ありえない? そうでもないです。
定額貯金を持っている人は預入時期と利率を確認してみましょう。平成7年以前に預け入れた人は年率2%を概ね越えているはずです。そういう預貯金は解約して繰上に回す他に、預貯金の満期か、借金の利率が上がるかするまで待つ、というのも選択肢に入れないといけません(どれが一番お得かは時と場合によります)。ということはですよ、住宅購入の際にも、利率の高い定額貯金や定期預貯金は解約しない方が有利なこともある、ということです。「あ゛。解約しちゃった」・・・ご愁傷様です。
また、日本円で見ると2.6%という利率はかなり難しいですが、ちょっと海外に目を向けてみると・・・(為替リスクには注意しようね)。外貨で借金もできるともっと選択肢が増えるはずですが、個人では無理かな。
繰上時期
将来の支払利息を減らしたいならばなるべく早く繰り上げるべきである。税額控除を最大限に生かすならば税額控除を受けた直後に繰り上げるべきである。また、預貯金金利を最大限生かすならば借入金利が上がるまで繰上は待つべきである。実際にはバランスが大事。
税額控除
公庫のページを見ると、「借入期間10年」とは「初回返済日から最終回返済日まで」の期間が「10年」となっている。借入日ではなく初回返済日というところがミソ。ということは、10年120回払だと、1回目は期間0ヶ月と数えるので、120回目は期間9年と11ヶ月である。あれ? 10年ないではないか。
というわけで、繰上返済後の総返済回数は121回以上じゃないといけない。50回返した後に残り70回にしちゃうと控除が受けられなくなるはず。新規借入の時にもこの条件が適用されるのかどうかは不明。また、つなぎ融資とかを受けると公庫10年返済でも合計で121回以上になると思われるが、その場合にどういう扱いになるのかも不明。
このような事情で、以下のシミュレーションでは住宅ローン特別控除を受ける場合の返済回数設定は最低121回にしてある。新規借入でも121回である。公庫の場合、新規融資で設定できる返済期間は年単位である。
税額控除を最大限受けるためには、なるべく借入金残高が減らないようにする必要がある。そのためには、いっぱい借りるか長く借りるかしなければならない。しかし、無理に控除を受けようとして借入額を増やしすぎたり、返済期間を長くしすぎたりすると、税額控除より支払利息のほうが多くなる可能性もある。いっぱい借りると返済が大変になり、繰上もままならなくなるので、一般的には返済期間を長くする。
また、繰上返済の有無や時期にも注意する必要がある。もっとも控除が多いのは繰上をしない場合である。控除額は年末の借入残高で決まるから、繰上をする場合でも、12月に繰り上げるより1月に繰り上げるほうが控除額が増える。実際には支払利息や預貯金利息との相談になる。
以下の5通りの支払方法について、3通りの収入金額と、各種利率で計算を行う。計算は円未満四捨五入を基本としている。実際の金融機関の数字とは多少差があるので、繰上返済を実行する際には担当金融機関に問い合わせること。
1. 後半返済分がぎりぎりになるようにする。
あとは何も小細工をしない。シミュレーションの比較基準。前半は余剰金が出るから、この分は適当な金利の貯蓄に回す。繰上完済できるようなら完済する。
●35年ローンを組む
余剰金が多い場合でもわざと最長期間のローンを組めば、返済残高がなかなか減らない分、貯蓄と特別減税控除額が大きくなる。預貯金金利が高い場合はせっせと貯蓄した方が有利、低い場合は貯蓄を繰上に回してしまえばよい。
2. 10年返済前からひたすら繰り上げる
貯蓄が公庫の最低繰上額100万円に達するごとに繰上を行う。完済できるようなら完済するが、完済できない場合は住宅ローン特別控除を利用するために、総返済期間が10年未満となるような繰上はしない。預貯金金利が比較的低い場合に有利と思われる。
3. 繰上は1月まで保留する
住宅ローン特別控除を最大限利用するため、繰上は控除が終わった直後に行う。借入金が多く、収めている税金が借入金と釣り合っている場合に効果が大きいと思われる。繰上返済の間隔は延びる方向だから、預貯金金利が高ければ2.よりもこちらの方が有利になると思われる。
4. 繰上は10年返済まで保留する
繰上する場合にくらべ、住宅ローン特別控除が増えるという特徴がある。余剰金はバンバン貯蓄になるから、預貯金金利が当初10年の金利に近い場合に有利と思われる。
5. 繰り上げしない
繰上返済は実行しないが、完済できるようになったら完済する。預貯金金利が10年目以降の金利をも越えている場合に有利と思われる。
借入は1000万円で計算することにする。公庫の繰上は100万円以上という制限があるため、借入が半分になれば繰上期間はほぼ倍に伸びる。借入500万円だから全部の数字を半分にすればよいというほど甘くない。全部計算しなおしになる。
その他のパラメーターには余剰金と預貯金金利がある。余剰金は収入から返済金以外の支出を引いた額である。ここから返済金を引いた残りが貯蓄にまわる。貯蓄はゼロから始め1ヶ月複利でまわしている。表中の表示は年率だが、(1+年率)1/12−1 で月利を求めている。つまり、一定のお金を預けておくと、一ヶ月で (1+年率)1/12 倍、一年では { (1+年率)1/12 } 12 で、ちょうど (1+年率) 倍になる。
シミュレーション期間は、おそらく各パターンとも1.の場合のローン期間でほぼ完済すると思われるので、1.のローン期間とし、シミュレーション期間経過後の貯蓄残高を比較することにする。期限前に返済が終わっている場合は、余剰金は全額貯蓄にまわし、一ヶ月複利で金利を付ける。借入が残っている場合には残債と貯蓄を相殺することにする。利息にかかる税金は考慮してないので注意。利息は国税・地方税合計で20%が源泉徴収される。以下の利率は税引き後の利率だと思って読んで欲しい。
返済開始月によって住宅ローン特別控除の額が変わってくるが、ここではちょっと気分を変えて8月返済開始で計算している。つまり、最初の控除は5回返済後になっている。
■余剰金5万円の場合
後半がギリギリになるようにローンを組むと、公庫の早見表から25年(300回)払となることが分かる。このとき、当初10年間の支払額は45367円、10年返済後借入残高が6,755,986円で、11年目以降は49973円になる。35年(420回)払でローンを組むと、当初10年間の支払額は36288円、10年返済後借入残高が7,998,686円、11年目以降は42220円になる。利率を0.01%きざみで変化させて期間25年でシミュレーションすると以下のようになる。
利率 返済方法1 返済方法2 返済方法3 返済方法4 返済方法5 0.00 1,478,351 2,133,731 2,187,861 1,926,898 -218,287 0.01 1,480,853 2,135,012 2,189,146 1,936,690 -212,266 0.02 1,483,577 2,136,442 2,190,582 1,938,877 -206,089 中略 0.32 1,575,723 2,191,560 2,241,553 2,033,942 -15,480 0.33 1,578,565 2,193,060 2,243,076 2,036,251 -8,958 0.34 1,581,420 2,194,565 2,247,814 2,038,585 -2,407 0.35 1,584,265 2,196,062 2,249,310 2,040,898 4,131 0.36 1,587,117 2,197,591 2,250,855 2,043,243 10,700 0.37 1,589,993 2,199,090 2,252,379 2,052,789 17,275 中略 1.86 2,122,426 2,514,384 2,571,591 2,568,288 1,356,210 1.87 2,126,186 2,516,217 2,573,443 2,571,316 1,363,820 1.88 2,129,950 2,518,043 2,575,325 2,574,370 1,380,547 1.89 2,133,727 2,519,882 2,577,198 2,577,418 1,388,144 1.90 2,137,488 2,523,930 2,579,086 2,580,479 1,395,777 1.91 2,141,275 2,525,761 2,583,050 2,583,538 1,403,407 中略 4.05 3,161,050 3,001,789 3,001,789 3,456,883 3,443,881 4.06 3,166,581 3,004,206 3,004,206 3,461,434 3,453,800 4.07 3,172,151 3,006,634 3,006,634 3,465,972 3,463,728 4.08 3,177,687 3,009,062 3,009,062 3,470,519 3,473,668 4.09 3,183,238 3,011,481 3,011,481 3,475,052 3,483,662 4.10 3,188,837 3,013,941 3,013,941 3,479,615 3,493,657
預貯金金利が低い場合、繰上なしで呑気に35年ローンで返済していると、25年では完済できないことが分かる。ところが、住宅ローン特別控除を効果的に使いながら繰上返済を繰り返すと、25年より前に完済でき、しかもぎりぎりでローンを組んでいる「返済方法1」よりも貯蓄額が多くなることが分かる。「返済方法1」よりも「返済方法3」の方が借入金残高の減り方が遅いため、住宅ローン特別控除で戻ってくる税金が多い。これが貯蓄額の差に出ているようだ。ローンはぎりぎりまで組めばいいというものではないことが分かる。
預貯金金利が高くなってきて、当初10年の借入金利2.6%−住宅ローン特別控除の控除率1%=1.6%を少し超えたあたりから、10年間は繰上返済しない方がお得になる。さらに、利率が11年目以降の借入金利4%をちょっと超えたあたりから、完済できるまで貯蓄に回してしまうほうがお得になる。繰上返済もやみくもにすればよいというものではないことも分かるだろう。
ぎりぎりでローンを組んでいる「返済方法1」は途中から「返済方法2」や「返済方法3」を抜いているが、それでも「返済方法4」に追いつくことはなく、最終的には「返済方法5」に追い越される。
■余剰金7万円の場合
公庫の早見表を見ると15年(180回)払が相当する。当初10年間は67151円、10年返済後の残高は3774272円で、11年目以降は69509円になる。
利率 返済方法1 返済方法2 返済方法3 返済方法4 返済方法5 0.00 1,106,051 1,200,360 1,208,927 791,012 -349,035 0.01 1,107,002 1,201,049 1,209,727 792,415 -343,755 0.02 1,108,055 1,201,824 1,210,617 798,618 -338,376 中略 0.61 1,175,009 1,259,850 1,275,308 992,222 -12,226 0.62 1,176,111 1,260,662 1,276,244 995,187 -6,540 0.63 1,177,226 1,261,479 1,277,169 1,002,659 -847 0.64 1,178,338 1,262,290 1,278,095 1,005,615 4,837 0.65 1,179,450 1,266,009 1,279,033 1,008,575 10,541 0.66 1,180,564 1,266,814 1,279,967 1,011,539 16,243 中略 1.77 1,316,570 1,370,347 1,401,247 1,396,493 830,257 1.78 1,317,813 1,371,219 1,402,280 1,399,855 849,558 1.79 1,319,050 1,372,101 1,403,297 1,403,225 855,194 1.80 1,320,296 1,372,974 1,404,331 1,406,595 860,846 1.81 1,321,534 1,373,845 1,405,360 1,409,960 866,485 1.82 1,322,777 1,374,731 1,406,389 1,413,353 872,150 中略 4.05 1,636,735 1,582,205 1,645,348 2,299,060 2,295,158 4.06 1,638,267 1,583,213 1,646,490 2,303,371 2,301,085 4.07 1,639,816 1,584,224 1,647,633 2,307,681 2,307,014 4.08 1,641,354 1,585,218 1,648,779 2,312,001 2,312,951 4.09 1,642,902 1,586,229 1,649,916 2,316,327 2,318,887 4.10 1,644,431 1,587,241 1,651,074 2,320,666 2,324,853
だいたい同じ傾向であるが、返済方法4がお得になるのが利率1.80%と、5万円の場合の1.89%に比べて0.1%近く低くなっている。
■余剰金10万円の場合
計算してみると113回で完済してしまうことが分かる。ここでは税額控除を受けるために121回で組んでみる。当初10年間は94040円、10年後の借入残高は93804円となり、これを最後にぽちょん、と返すことで返済終了になる。シミュレーションは120回分実行している。
利率 返済方法1 返済方法2 返済方法3 返済方法4 返済方法5 0.00 1,263,933 1,294,017 1,289,280 757,545 757,545 0.01 1,264,535 1,294,947 1,289,935 761,361 761,361 0.02 1,265,190 1,295,479 1,290,649 765,238 765,238 中略 0.26 1,281,133 1,311,808 1,311,340 874,893 874,893 0.27 1,281,802 1,312,341 1,312,054 878,766 878,766 0.28 1,282,471 1,312,861 1,312,767 882,646 882,646 0.29 1,283,143 1,313,392 1,313,484 886,515 886,515 0.30 1,283,812 1,313,920 1,314,200 890,404 890,404 0.31 1,284,489 1,310,050 1,314,918 894,276 894,276 中略 1.70 1,383,226 1,391,618 1,421,910 1,415,063 1,415,063 1.71 1,383,954 1,392,181 1,422,677 1,418,907 1,418,907 1.72 1,384,685 1,392,747 1,423,435 1,422,746 1,422,746 1.73 1,385,415 1,393,307 1,424,201 1,426,587 1,426,587 1.74 1,386,138 1,393,870 1,424,966 1,430,444 1,430,444 1.75 1,386,869 1,394,433 1,425,735 1,434,295 1,434,295
さあ注目である。繰上返済の原資が貯まる速度が速いため、貯蓄が100万円に達してから特別控除を受けられるまで少し間があくようになる。返済方法2では受けられる控除額と預貯金の利息が減る代わりに将来の金利負担が減る。返済方法3ではその逆になる。預貯金金利が低い場合はなるべく早く繰上返済をした方が得、という結果になっている。繰上返済は1月が基本であるが、1月に繰り上げれば100%得というわけではないということも肝に銘じておくべきである。返済方法2にさらに小細工をして、年末に近い繰上返済を次の年に動かせば、もう少し差は広がるはずだ。要は頭を柔らかくして、臨機応変にいろいろと計算してみることが大切である。
利率がちょっと上がると、繰上返済をのばした分の金利負担が預貯金金利と相殺され、返済方法3の方が得になる。返済方法4がお得になるのは預貯金金利1.73%の時で、余剰金7万円の場合(1.80%)に比べてさらに低利の方へ動いている。返済方法4と返済方法5はよく見ると同じ数字が並んでいるが、これはどちらも120回以前に完済してしまい、差が出ないためである。
いずれの場合でも、ギリギリまで借りてしまうと「損」と出た。原理的には税額控除をしっかり受けた上で、利率が低ければ繰上返済した方がよく、利率が高ければ貯蓄に回したほうが得である。返済方法1は借入残高が早く少なくなるため、特別控除額が少なくなる。また、余剰金10万円の場合でも貯蓄が月6000円弱で、10年間で72万円にしかならないために繰上返済ができない。貯蓄額も他の返済方法に比べて少ないため、預貯金金利の効果を得ることができない。結局、今回シミュレーションした範囲では中途半端な返済の仕方ということになってしまった。ただ、もっと財力がある人はまた違った結果になるだろう。
1月7月ボーナス返済のみ利用。8月開始で利息をちゃんと計算する。ひたすら繰上返済する。
上と同じ条件で、繰上は1月まで保留する。
上と同じ条件で、繰上は10年返済まで保留する。
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